ノベル職人
〜ノベル〜


辻魔通りの田中さん

4:草刈鎌の

「感じているとは思うけど、ここは君達の住んでいる世界ではない。此処は、君達の世界と別の世界をつなぐ"境界"なんだ」
素直に頷く。
だって、僕らの世界とは明らかに違うから。……どこがどう、と問われても困るけど、何か、感覚的に。
「そして、この境界の管理と、世界同士が無用な干渉をし合わない様、見張りをするのが俺の仕事。時と世界と契約したから此処に住み、時の束縛に縛られない。つまり、俺は歳をとらないで、ひたすら此処に住み続けるんだ」
寂しくはなく、むしろ楽しいと言う。
「だって、知る事のできる世界が人より遥かに多いんだ。自由に行き来も出来るし。……それに、たまに君達の様なのが来るしね、いろんな世界から」
聞けば、世界は数えきれない程に存在しているらしい。
「平行世界から、ユメの世界、それに俗に言う、魔界みたいなのもある」
そして世界が多数存在しているが故に、支えあう様にして世界はつながっているらしい。
そのつながりが、幾つもある"境界"。そして此処はその内のひとつにあたる。
「俺は全部は把握していないが、そこらへんのシャッターを開けてみれば、簡単に違う世界への道がある筈だよ」
好奇心はあるが、確かめる程の勇気はない。その世界を認識した途端、引きずり込まれる。そういう事もあるらしいから。
「……君は、そういう"理"(コトワリ)を"感じる"タイプだね。たまにいる。だから他の二人の様にはならなかった、という事か」
僕が此処に対し、異常なまでの陶酔がなかったのには、単純な恐怖を抱かなかったのにはそういう訳があったのだった。
「――此処が、主につながっているのは右の道の"空想幻想"(ユメマボロシ)と、左の道の"妖"(アヤシ)っていう世界だ。君のお友達が"妖"に行ったのなら、まだ良いけど、もし"空想幻想"の方に行っていたら、少しまずいかも知れない」
何故か?
―――殺人鬼がいるらしい。
あまりにその存在が稀薄すぎて、"空想"(ユメ)に取り込まれたモノが。
「最近フラリと此処に現れ、すぐに"空想幻想"に取り込まれた。あそこに取り込まれたら数日で掻き消えてしまうから良いか、って放っといたんだけど、意外としぶとくてね」
存在は無いが、執着というか、執念はあった。
推し測れない程の。
その名前は殺意。
「今じゃ最初よりも稀薄になったのが分かるんだけど、あまりの執念に、もしかしたら実体を持ったまま空想(ユメ)になってるかも知れない。そうなると―――」
どうなるか。
目的は殺人。
理由――殺意――はある。
では、手段は?
もしかしたら消えてしまっているかも知れない。
でも、もしかしたら。
殺される。
その結論に背中に汗がつたう。
歩きから早歩き、更に走った。そうしてついに、右の道の突き当たり、シャッターが降りた店の前まで来た。……普通の閉店した店に見えるが、此処が"空想幻想"の入り口らしい。
先についた田中さんが声を漏らす。
「―――ああ…………この黒い帽子を知ってるかい?」
知らない訳がない。
それは、間違いなく、タイチの物であった。


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